元ベンチャーキャピタリストが語る、激動時代のスタートアップ成功法則
5月18日、バンクーバーで開催された特別講演会「最新のアントレプレナーシップについて」。日本・カナダ商工会議所(JCCOC)が後援するこのイベントに、早稲田大学ビジネススクール教授で元独立系ベンチャーキャピタル創業者の長谷川博氏が登壇しました。
普段の仕事で、これまでベンチャーキャピタルという名前を聞いた事があっても、実際にどのような人たちが、何をしているのか?を知る人は少ないと思います。
起業家にとって、新しいビジネスアイデアでスタートアップ企業をおこす時に、ベンチャー資本家(キャピタリスト)の存在を知っていただく事で、もっと効果的でスピード感あるスタートップが可能となると考え豊富な経験と卓越した実績を誇る、現在は早大経営学院で教鞭をとる長谷川博和先生にお越しいただき講演会つづいて懇親会を行いました。
会場には起業家、会社員、学生、専門家など多様な顔ぶれが集まり、1時間の講演と30分の質疑応答は予定時間を大幅にオーバー。参加者からの質問が途切れることなく続く、熱気に満ちたセッションとなりました。
「短期思考の罠」から抜け出せ
「世界中が内向き思考になっている今こそ、長期的な視点が重要です」
長谷川教授はトランプ政権の関税政策を例に挙げながら、現在の世界情勢を分析。SNSの普及により15秒の動画しか見ない有権者が増え、政治家も短期的に喜ばれる政策しか打ち出せなくなっていると指摘しました。
しかし教授は「人類が何千年もかけて築いてきた貿易の恩恵を、短期的な政策で放棄するのは時代の逆行」と断言。経営者には長期的な戦略を持ち続けることの大切さを訴えました。
ChatGPT登場で「勝ち組」と「負け組」が逆転
講演で最も注目を集めたのは、AIの進化がもたらす職業環境の激変について。
「2020年には『単純作業がAIに奪われる』と言われていましたが、ChatGPTの登場で全く逆になりました」
長谷川教授によると、現在AIに最も置き換えられやすいのは高学歴で高収入の職業—通訳、数学者、金融分析者、投資ファンドマネージャーなど。一方で、肉体労働や職人的な技能を要する仕事は「後回し」になっているそうです。
この変化を「ピンチでもありチャンスでもある」と表現した教授。特に農業、漁業、教育など、これまでAI活用が進んでいなかった分野にこそ大きな機会があると強調しました。
インド視察で見えた「本当の競争相手」
年に2回インドを訪れているという長谷川教授。バンガロールでの体験談では、会場の笑いを誘いながらも鋭い洞察を披露しました。
「インドの天才たちは14億人から選ばれて、全員英語ができて、平均年齢27歳。しかも生活費が高いから必死なんです」
シリコンバレーでワンルーム80万円という生活費の高さと、それが生み出す「必死度」についても言及。「日本のスタートアップは中途半端に居心地が良すぎる」という辛辣なコメントも飛び出しました。
失敗を語れる稀有な投資家
「ほとんどの大学教授は成功事例しか語れません。でも私は失敗事例を300個、400個語れます」
長谷川教授の強みは、自身が投資した会社の倒産経験を包み隠さず語れること。チケット販売会社への投資失敗談では、キャッシュフローマネジメントの甘さが招いた教訓を詳しく説明しました。
投資判断で最も重視するのは「人材リスク」。技術やマーケティングよりも、経営者の理念と困難に直面した時の対応力が成否を分けると断言します。
カナダと日本、もっと仲良くできるはず
質疑応答では、カナダのスタートアップ環境について興味深い議論が展開されました。
「カナダにはAI分野でノーベル賞受賞者もいるし、優秀な人材も豊富。でも日本の投資家との接点が少なすぎます」
参加者からは「カナダから日本への投資は0.2%しかない」という具体的なデータも紹介され、両国間の経済交流の余地の大きさが浮き彫りになりました。
長谷川教授は「お互いを知る機会を増やせば、必ず大きな可能性が開ける」と両国協力の重要性を強調。まさにJCCOCのような組織の役割の重要性を示唆する内容でした。
変革期だからこそチャンス
講演の締めくくりで、長谷川教授は「激動の時代は、知名度もお金も経験もない若いアントレプレナーにとって大きなチャンス」と参加者を激励。
「世の中全体がまだ変化に気づいていない今こそ、その認識ギャップをうまく活用できれば、皆さんにも良いことが起こるはず」
講演終了後のネットワーキングセッションでも、参加者同士の活発な交流が続きました。AIやDXが急速に進む中、日本とカナダの経済界が手を携えて新たな価値創造に取り組むための貴重な示唆に富んだ一夜となりました。
日本・カナダ商工会議所(JCCOC)について 2003年に設立されたカナダ政府公認のNPO。日本とカナダをビジネス、文化、教育、観光でつなぐ活動を通じて、両国間の友好関係促進に貢献しています。多民族社会での協調を大切にしながら、実践的なビジネス交流の場を提供し続けています。